立川がじらオフィシャルブログ(令和)

立川がじら(1986~)のブログです。立川がじらは若手の落語家。

2021年を振り返る

2022年になったので、ブログとしてはひとまず、2021年の振り返りということで少し書かせて頂きます。12か月。いきなり長い。

 

①1月

2021年は前年より引き継いだコロナ禍という、未曽有の年明けから始まったわけですが、壊滅かと思われたお仕事も関係者各位のご尽力でなんとか繋がったものもあり、責任を伴う判断をしてくださった方々には誠に感謝でございます。
1月は新春の会、延期になったものがいくつかある他、日野と足立区に伺えた。やった中~大きめのネタは『宿屋の富』『うどん屋』など。冬場は大ネタが多いので、毎年手掛けていかなければ。
『宿屋の富』は自分好みのギャグを入れて狂気の演目に。謎の貧乏な田舎者がまさかの宝くじに大当たりしちゃうシーンで入れたとある工夫は、手前味噌ながら大好き。味噌が手前、奥に蜂蜜。

 

②2月

下旬に、縁があり参加させてもらっている劇団「地蔵中毒」で下北沢のザ・スズナリという素晴らしい劇場にて公演させて頂いたので、それに費やしたような一か月でした。
いま毎月お世話になっているAI演芸部さんの配信企画でかませけんたと落語の二人会をやったり、連雀亭の出番があったりしたほかは演劇の日々。
劇中では、はえぎわの町田水城さんとコンビみたいな役どころをもらって、とても勉強になりました。アフターイベントで松尾スズキさんにご出演頂けたのは夢のようだった。とても嬉しい期間でした。自分の過去が羨ましくなるくらい。

 

③3月

この月に入るとやはり思い出すのは10年前の11日で、入門したばかりの頃だった。このお話はこの時期に高座でしているので書きませんが、あれから10年経っちゃったと今の自分を見るとそれはそれで不安になるのであります。
この20日、席亭にお世話になって越谷のごりごりハウスという良きライブハウスで「越谷ごりごり寄席」。10年前に師匠がこの頃よくやっていた『人情八百屋』をかける。江戸っ子の無私(ボランティア)っぷりについて。江戸っ子の主に迷惑なところを笑うのが落語だけれど、そこが彼岸へ抜けていくようなこの感じは野暮ではなく。

その他、キミョラク新作落語『人情ミッシェルガンエレファント』ネタおろし。これも、江戸っ子みたいな話。オリンピックも絡んでくるから、もうあんまりやれないか。

月末に大学の先輩の結婚式があり司会のお役目を頂戴したので夜行バスで京都へ乗り込んだ。とても嬉しいお招きで、少し滞在して観光した。ほぼ中学校の修学旅行以来で、空也像も見たし三条境町のイノダコーヒーにも行けた。そして、ふとしたご縁から京阪ガールのミーさんと少しの時間ですがお会いすることができて、なんだか凄いことでとても不思議な感じだった。10代の頃の自分にコミュニケーションを取りにいくようなこの3月。

 

④4月

本来なら新学期の花の季節なのだけど、世の中は舵を切れない。仕事はほとんどない。映画館で『花束みたいな恋をした』という映画を観た。花束のように紋切型のラッピングをされ幾つも生成消滅する恋愛なるもの、という絶望だと思った、と、その時の感想にあります。

半ばに確定申告をしました。確定申告というものは懺悔のように、私はこれだけ稼いでしまったのですと告白する場だと思っていて、実はこれがある種の快楽と繋がっているのかなと密かに感じています。色も選べる青と白の二色、でもこの時の気分はオフホワイト。

26日、浅草なまらく亭にて独演会。ここでネタおろしした『緊急事態の国のアリス』という自作の噺にはずっと世話になっている。もともと「不思議の国のアリス」のパロディをつくろうと思っていたら、いつの間にか、まん延防止をネタに取り込んだ噺になっていた。大きくウケる時と全然ウケない時の差が激しい落語。わからない人に的外れな感想を書かれたこともある。

 

⑤5月

ここで緊急事態宣言が出たんだっけ、ゴールデンウィークはステイ。ステイゴールドでとお願いされた。本当に何もしない月だったみたいで、日記を見返すと「ぎょうざの満州」に行ったことだとか、いま松屋はトマトカレーを出しているだとか、つまり何もしていない。寄席が営業を停止したのはこのときか!

5月は誕生日があります。何もしません。月末に立川流新作の会で『新垣結衣の夫』ネタおろし。オチでお客席から悲鳴が上がりました。

 

⑥6月

7月にやる地蔵中毒の公演の稽古が本格化する。落語のほうでは、地元の前橋の市民文化会館で円楽師匠がご出演の会に出番を頂く。前橋にちなんだ噺を、とのことで詩人萩原朔太郎にちなんだ地噺を申し上げました。朔太郎を音楽史的に語るという試みを。これはメモリー

あとは、ザゼンボーイズを聴きに豊洲へ行ったり、大人計画を観に下北沢へ行ったり、宇宙論講座を観に王子へ行ったりしました。楽しいのと、楽しさが刺激になってドシャメシャになる自分。勉強しようという気がなくなってしまうくらいにエンターテイメントにはまる喜び。

 

⑦7月

立川わんだ兄さんによる「ラディカル落語」という企画がはじまり『メルカトル氏の問題』という不思議な噺をネタおろし。コロナ以降、無観客配信企画がいくつも立ち上がって、観客席とは何なのかという疑問から要請されたメルカトル氏という不思議なお客さんについての噺。この観点は落語史になかったか、非常に珍しい。

下旬には地蔵中毒の二度目スズナリ本番。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を原作として、御徒町を舞台に繰り広げるドタバタ喜劇。今まで変なおじさんの役がほとんどだったのに、死期が近い老人の役をはじめてもらって、仲代達也さんってこんな気分なんだなと思ったりしました。原作ではゾシマ長老。
オープニング映像収録であやまんJAPANの方々とお会いできたのは嬉しいことでした。あやまん監督はいつか郷土の偉人としてご一緒したいです。

 

⑧8月

頭にシアターコクーンへ初めて行って三浦大輔さんの『物語なき、この世界』をみた。ミネタをはじめて生でみた!という興奮。2月に地蔵中毒で共演したボブ美さんがこんな大きいところで笑いをとっていて、凄いと思った。ほっしゃんの星田さんが背中でみせるシーンがとても良かったのを覚えています。

だんだんとコロナの波がきて、ちょっと緊張の社会状態になったのもこの時期。8月の半ばくらいからとても不穏だった。

23日、つる子姉さんらのYouTubeドラマ企画「ラクバン」の会に出番を頂く。時節がら配信を入れて。会場でお借りした、ゆにおん食堂さんは本当にいい会場だった。年季の近い仲間たちとの会は、もしかしたら一番頑張れるのかもしれない。

月末にはオフィスゾーイさんの企画、浅草なまらく亭での会「シン・がじら」というタイトルがついた。『応挙の幽霊』と『もう半分』ほぼネタおろし。後者は「ウラ芝浜」なんじゃないかと思っていて、あとインド映画「ストーミー・ナイト」の感じがとても合うと思ったので、爺さん側の怖さも出して。うまくいったかな。何せ、お客さんを呼べないのでよくわからない。

 

⑨9月

ワクチンの一回目を摂取。警戒したけど特に副反応はなかったか、仕事があったので先回りして解熱剤を飲んでたのだっけか。

NHKラジオ「NEXT名人寄席」からオファーを頂いて、収録。新作をやってほしいというのは嬉しいことで拙作『世界の終わり』を口演。ナビゲーターの長井短さんが地蔵中毒を観に来られたときの話をしてくださり、この劇団名が電波に乗ってしまい慄く。うひゃあ。

他に新作落語は、ワクチンと耳なし芳一を題材にした噺をつくってこの頃やってました。mRNAワクチンの、ウイルスの設計図(情報)を体内に注射して抗体をつくるという性質が、経文(情報)で身体を守った芳一と似てると思って、その他の共通点をさがして一席に仕上げました。芳一は「耳」を奪われたけど、現代人が奪われたのは「舌」なんだよな…とか。このアイデアを色んな人に伝えたくって!

 

⑩10月

11月に地蔵中毒でコント公演を行うことがきまったので、稽古が始まる。

実は先月から猛烈に仕上げていた、講談社文庫『落語魅捨理全集 坊主の愉しみ』の開設を完成させる。著者の山口雅也先生とは本当に不思議なご縁でこのような大役を任せて頂いたのですが、本来なら僕のような格の者にまわってくるものではない。それでも、がじらなら書けるという賭けに出た先生のために、他の落語家には絶対に書けない視点から書かなきゃいけないと思った。僕の人生は、落語以前にミステリから始まっています。読んで頂ければわかるので、書店で買ってくださいまし。

この本に収められている「らくだの存否」という作品が「らくだ」の解釈として素晴らしいので、このバージョンでやらせて頂いたのもこの月。タイトルからなんとなくおわかりかと思いますが、落語の中では死して動かぬらくだが、ゾンビとなって大暴れする。これが大変に面白いだけでなく、理屈が通っていて、古典のアップデートってこういうことかと思うくらい。是非お読み、そしてご覧ください。

他にもちょこちょこ仕事のことを書きたいが長くなってしまいました。

 

⑪11月

配信でお世話になっている北区のAI演芸部さんの毎月の企画は「落語の基礎研究」となっていて、落語研究会が自明としていることのもっと基礎を考える配信です。ここで『らくだの存否』と『密室(仮)』をやりました。後者は、落語というものの性質が密室めいていることを生かして、矛盾そのものが潜んでいることを明らかにする噺。ふと、西田幾多郎のいう「絶対矛盾的自己同一」は落語において示せるのではないかと思ったりしました。

この時期は母校・明治大学商学部の授業で落語をやらせてもらっているのですが、今はリモート授業のため事前に収録した映像を送る。『風呂敷』をやりました。後日学生さんから感想を頂きましたが、本当によく見てくれていて驚いた。これはとても嬉しいです。

そして24日から渋谷ユーロライブにて地蔵中毒のコント「立ち漕ぎマリリン・モンロー」が開幕。落語家としてはコントではなく落語で出演したいところですが、ここで過去に地蔵のみんなと寄席をやっているし、落語もコントも両方やってる芸人はなかなかいないと思います。アフタートークをすべての回で実施するという狂気。これはここでは書ききれない経験に。掟ポルシェさんはじめ、なぜ出演してくれたのかわからないような方々が来てくださいました。

 

⑫12月

師走!まずゴキブリコンビナートの本公演を観にというか体験しにいきました。個人的に知っている役者さんも出ているのに誰が誰だかわからない狂気っぷりと、後で振り返ると江戸川乱歩の世界そのものだったと思うような物語の凄さ。逃げながらの幸福な観劇。また春にやるとのことで、めちゃくちゃ楽しみに。

東京にこにこちゃんという劇団の萩田くんが落語を四席書いてくれたので、連雀亭で発表会をやりました。萩田くんの人気のおかげで満員御礼!
『落語の一番長い日』とか、にこにこちゃんの本公演のように綺麗な良い噺ですよ。いつか真打に昇進したらトリでこれをやりますね。昇進前に我慢できず普通にやるかも。『嵐の夜に』とか、こんど広小路亭とかでやりますね!

群馬県出身の二ツ目四人で結成したグループ上州事変。県内全市町村で公演を実施する計画で回っていましたが、コロナでお休みに。その久々の復帰会がなんと世界遺産富岡製糸場で26日行われました。世界遺産で落語会をやったんです。これはもう嬉しい限り。みんな頑張って参りますよ。これは別のところで書かなければ。。

 

そんでもって2022年の年明けになるわけですね。